あとがき


 はじめまして、あるいはお世話になっております。サークル鶏卵工房の瀧川新惟です。『Little Busters: another end of refrain - 棗恭介の帰還 -』、お楽しみ頂けたでしょうか。

 さて、例によって解題と解説です。
 本作は、『リトルバスターズ!』のエンディングにおけるバス事故からの生還と、エピローグの間に内挿される、棗恭介と『世界の謎』をめぐる物語です。
 以前に発行した同人誌『あーちゃん先輩の恋の空騒ぎ!』のあとがきで、瀧川は以下のようなことを書きました。

 さて、虚構世界のことになると――ちょっと穿った話になります――僕はどうも、『リトルバスターズ!』の物語で納得がいっていない点があるのです。それは、オーラスエンドに描かれる修学旅行が、現実の世界であるという保証がどこにもないところです。虚構世界の多重構造のなかにいるだけ、という可能性がある。これは多くの論者が指摘していることで、特段に新しい視点ではありません。
 でも、これはとても怖いことです。要するに、直枝理樹と棗鈴は、棗恭介という超越的装置によって、永遠に揺りかごのなかで夢を見させられている可能性があるわけですから。この疑問はつまり、『リトルバスターズ!』という物語の健全性そのものに対する疑問になってしまうわけです。
 そもそも、バスターズのみんなで、揃って楽しいことの続きをしに出かける、というエンディング自体が、極めて虚構世界的なんです。『ここからは一冊しか持って行けないよ。それでよかったのかい?』から始まり、『誰がいても、誰がいなくなっても、僕は唄うよ』ときて、オチは『ここからも書き続けていけばいいよ それが君のものだから』なんて、ちょっと納得できない(古いファンのひとには、「カメレオンの玩具」のイメージ、といえば通じるでしょうか)。
 ですから、永遠の揺りかごたるバスターズから、誰かひとりでもいい、旅立つ話は、『リトルバスターズ!』という物語にとって必須だったはずです。そして、その役目を背負うべきなのはきっと、バスターズのリーダーであり、虚構世界のマスターであった棗恭介に他ならない。

……とまあ、前作はそんなお話だったわけですが(Web連載版の時点ではちょっと風味が違います)、実は『リトルバスターズ!』の健全性を担保するのにはもうひとつ、簡単な方法があります。それは、他でもない、理樹に恭介を乗り越えさせることです。

 原作における二度目のバス事故、恭介も含めてすべてのクラスメイトを救ってみせるシーン。あれは本来、そういうシーンであったはずです。しかし、それにしては何とも納得のいかない点があります。それは、そのシーンの直後に挿入される、恭介の独白です。
 黒い背景に白い字が次々と浮かんでは消えていく演出。あれが、一度目のバス事故のシーン、鈴を連れて逃げるシーンの後に入る虚構世界における理樹との会話と全く同じ演出が使われていること。これが上記引用のような違和感の原因のひとつでしょう。
 そしてもうひとつ本質的なのは、理樹と鈴がふたりでバス事故を解決してみせる、というご都合主義的に過ぎる展開と、あらゆるご都合主義を実現できるデバイスとしての虚構世界が物語上共存している点です。あのシーンは、理樹が恭介を乗り越えるシーンにしては、あまりにも虚構世界的過ぎると思うのです。

 上記の課題を解決するために、本作では、『二度目のバス事故を解決した時点では、理樹は未だに虚構世界にとらわれている』という設定を採用しました。しかしその一方で、『リトルバスターズ!』のエンディングそのものは、まったく健全なものとしてとっておきた……という欲求が瀧川にはありました。この両者を満たすもっともシンプルな方法が、『バス事故からの生還と、エピローグの間に、虚構世界からの脱出、理樹と恭介の対決の話を内挿する』ことだったわけです。
 ……とは言ってみたものの、これはそう簡単に書ける話ではありません。なぜならば、虚構世界の構成原理そのものについて、作中でも、あるいはインタビューなどにおいても、十分な説明は一切なされていないのですから。たとえば、恭介が世界をリセットするときに、一体何をしているのか……それすら判らない始末です。

 そんなわけで、本作ではがっつり、パロディ、という手法を取り入れました。『リトルバスターズ!』作中劇である『学園革命スクレボ』を、彼の『ジョジョの奇妙な冒険』に見立て、恭介たちにスタンドバトルを繰り広げさせる――かつシリアス話なわけで、この作劇方法が果たして一般に受け入れられるものなのかどうか、今でも判らないなあと思っています。
 そのほかにも、恭介のスタンド……もとい革命装置は『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむらのそれに酷似していますし(まあ、時計を模したビジュアルはどこにでもありそうな設定でもあるんですが)、途中では『ONE〜輝く季節へ〜』みたいな話も出てきます(余談ですが、ささかまシナリオのバッドエンドは、完全にそれへのオマージュだと思っています)。そしてそのさらに元ネタたる村上春樹に対する言及を直接行い、おまけにオチは『無限のリヴァイアス』そのまま……という、一体オリジナリティはどこにあるのか、ってな話です。
 まあそんな感じでかなりの色物にはなってしまいましたが、一応、『理樹が恭介を乗り越える』については何とか達成できたかなぁ……と思っています。

 もう一点、理樹がヒロイン勢と恋愛を繰り返していた件に対するもやもやも、本作の重要なテーマではあったのですが、これについては、作中で十分取りあげたので、ここでは割愛しようかと。

 そんなわけで、最後になりましたが、例によって謝辞を。
 本作は、リトバスクラスタの皆さん、特にSSクラスタ、考察クラスタ、恭介クラスタの方々に多くのインスピレーションを頂いております。瀧川独りで考え込んでも完成はできなかったと思います。いろいろな話をしていただいた・させていただいた皆様に感謝申し上げます。
 そしてもちろん、『リトルバスターズ!』の作者であるKey/Visual Art's様、そのスタッフの皆様には心から感謝いたします。瀧川はこれからもずっとついていきます!

 それでは、内容未定の次回作にてお会いできることを楽しみにしております!

二〇一二年一二月 瀧川 新惟


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