「西園君! これは一体どういうことだい!」
現場に駆けつけるなり、鈴木部長はせきこんで訊ねた。
訊ねる相手は西園美魚だ。
だが、彼女は小さく首を振る。
「判りません。NYPキャパシタの妙な偏向を検知して、アラートが発生しました。それで急いできてみたのですが……」
そこには、緊迫のにらみ合いを続ける少女が二人。その横にヘたり込む少女が一人。そのどれもが西園美魚の知り合いだ。
一体、何の経緯でこのような事態になっているのか。そしてNYPの使い手は、果たしてどちらなのか。
「部長、共感フィールドアナライザを起動します」
「判った。田中部員、増槽キャパシタを」
「はっ、ここに」
差し出されたのは、シンプルな黒いモノリス状の物体。ただ、その表面にはバイオハザードマークがくっきりと赤く刻印されている。
そこから延びる一本のケーブルを手に取ると、西園美魚は何処かからメガネを取り出してそのつるに繋いだ。
そしてそのメガネを――よく見ると、そのレンズの表面がディスプレイになっている。HUDだ――すちゃっと装着した。
『ピー、ガガー。ブンセキヲ、カイシシマス。ピー』
70年代のSFアニメも斯くやといった風情のロボット音声がして、メガネの内部から、いくつもの歯車がかみ合い、巨大な何かが回転する音が聞こえてくる。
メガネのフレームが赤熱する。波動エネルギーが4次元空間を通して僅かに漏出しているのだ。西園美魚は僅かに顔をしかめた。
鈴木部長は、それを気にする風もなく、身を乗り出して訊ねる。
「どうだね、西園君!?」
「……」
西園美魚はメガネに出力され高速スクロールしていくログと、その向こうに見える3人の少女を観察していたが、やがて小さく口を開いた。
「NYPカテゴリPh、ナンバー438、コードネーム『
「な、何だって――!!」
鈴木部長が仰け反った。
「独逸第三帝国……アーネンエルベの遺産!? まさか、あれはMI6に確保されて、外宇宙に放逐されたはずだ……!!」
西園美魚は応えない。
そのメガネ型HUDには、NYPの使い手が発する強力な現実歪曲フィールドが解析され出力されている。その内容はまさに、以下のようなものであった。
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葉留佳!葉留佳!葉留佳!葉留佳ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!葉留佳葉留佳葉留佳ぅううぁわぁああああ(ry
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対峙する二人は、互いに出方を伺って微動だにしなかったが、やがて申し合わせたかのように、ポケットに手を突っ込んだ。音もなく取り出したるは……実に新聞紙だった。
「毎朝新聞とは、実に優等生的だな、佳奈多君」
「そういう来ヶ谷さんこそ、なんで北海道新聞を……?」
「イクラが美味いからさ……」
緊迫の二言三言を交わしながら、二人はブレードを錬成していく。要するに新聞紙をくるくると巻いていく。地面に広げる必要もなく自在に武器を作り出すその所作は、二人が歴戦の猛者である証拠だった。
ほぼ同時に錬成を終えた二人は、すっとブレードを眼前に構えた。二木佳奈多のそれが、一瞬緑色に輝いた。
「
来ヶ谷唯湖は呟く。
「この目で見るのは初めてだ」
「よかったですね、来ヶ谷さん。冥土の土産話がひとつ増えましたよ」
「メイド? 私は竜騎士ではないぞ?」
周囲30メートルほどのNYPに殺気が満ちた。
「その言葉、挑発と受け取って構いませんね……?」
「来いよ、
不敵に笑う来ヶ谷唯湖に、二木佳奈多は遂に激昂した。
「葉留佳ぁーッ!!!」
振り下ろされ、
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閃光が散った――。
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否、それは二木佳奈多の予想に反し、それは強烈な火花を散らし続けていた。
来ヶ谷唯湖が構えるブレードは、一見何の変哲もないが、緑色に輝く二木佳奈多のブレードを何の苦もなく受け止めていた。
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「え……NYP……?」
鈴木部長は隣の西園美魚のほうに猛烈な勢いで振り返ったが、その反応は薄かった。西園美魚の額には、汗が一筋。
「共感フィールドアナライザに反応はありません」
「な、何だって――!!」
鈴木部長が仰け反った。
『ピー、ショウタイフメイ、ガガー』
共感フィールドアナライザも困ったなあと諸手をあげた。
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「まさか来ヶ谷さん、あなたまでNYPの使い手だとは……」
「勘違いしてもらっては困る」
二木佳奈多とは対照的な余裕の表情で、少しだけブレードを押し返して――造作もなく、だ――来ヶ谷唯湖が云う。
「なんだかよく判らないのは、なんだかよく判らないパワーだけとは限らないのだよ……!!」
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そのとき、西園美魚は奇妙なことに気づいた。
目を細める。
「どうしたんだね、西園君?」
鈴木部長の問いに、西園美魚はためらいがちに応える。
「通信が……マザーコンピュータとの通信が途絶しています」
「な、何だって――!!」
鈴木部長が仰け反った。
共感フィールドアナライザは、センサとディスプレイの複合体だ。その情報は無線通信で地球のマザーコンピュータに送らて、メガネ型HUDに表示されるのはあくまでもその結果にすぎない。マザーコンピュータとの通信を絶たれては、共感フィールドアナライザは単なる度の入っていないメガネにすぎない。邪道である。
だが、その状況は、鈴木部長に一つのヒントをもたらした。
「通信が……途絶……?」
西園美魚が振り返る。
「部長、何か考えが?」
「あ、ああ……」
メガネをくいっと押し上げて、鈴木部長は掠れた声だ。
「西園君……考えにくいことだが……」
「はい」
「あれはもしかしたら……PS装甲……いや、Iフィールドかも知れないぞ……!!」
「な、何だって――!?」
西園美魚が仰け反った。
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来ヶ谷唯湖の発するミノフスキー粒子と、そのIフィールドに、二木佳奈多の
ぐぐっと押し込まれ、二木佳奈多は完全に劣勢だった。
その顔は赤黒く染まり、心なしか彼女の新聞紙ブレードを包む
「堕ちたな、二木女史」
「な、何ですって……?」
「君の
「暗黒面!?」
二木佳奈多の顔はより一層赤黒くなり、彼女の
「私は葉留佳を守る! それが
「教えたはずだ、ルーク・スカイウォーカー」
来ヶ谷唯湖の声は、いつのまにか極低温のそれに変わっていた。
「守ることはいいとして――守るためなら、その意志が常に正しい
ブレードが押し込まれる。目が怒りに輝いている!
「――それは
その言葉に、二木佳奈多の目が大きく見開かれる。
「あ……」
「貴様を
云うと来ヶ谷唯湖は、二木佳奈多の
「爆熱ッ! ゴッド・フィンガ――ッッ!!」
「ミノフスキー粒子じゃねえッ!!」
盛大な爆発音、キャラに合わないつっこみが急速に遠ざかっていく。二木佳奈多は頭部を破壊され、雲のむこう、約束の場所へとすっ飛んでいく。つまるところ、このガンダムファイトは彼女の負けだった。
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そして時は過ぎて――
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「西園君」
鈴木部長が訊ねると、西園美魚は小さく首を振った。
「目標の初速は第一宇宙速度を大きく上回っていました。彼女が地球圏に帰還するには、少なく見積もっても2世紀はかかるでしょう」
二人はため息をついた。
「だが、これで地球の平和は守られたわけだ」
「決して小さくない犠牲の元に、です……」
西園美魚が視線を送ると、来ヶ谷唯湖は新聞紙ブレードとミノフスキー粒子ジェネレータをバックパックに格納して、残された登場人物の前に悠然と立った。
三枝葉留佳である。
「えーと……姉御?」
4クールのアニメを2時間の劇場版総集編に無理矢理突っ込まれたような顔をして、三枝葉留佳は唇をヒクヒクさせて笑った。
伏線(というか存在)の回収をすっかり忘れ去られていた格好である。
来ヶ谷唯湖は、珍しく困った顔をして頭をかいたが、やがてその言葉を口にした。
「君はいい友人だっったが、君のお姉さんがいけないのだよ……!!」
もはやわけわからん。ごめんなさい。
分量的には今までで一番長いという。調子に乗って書けるものが(とゆーかそーゆーものに限って)万人にとって面白いとは限らないという駄目な例な気がします(笑)