直枝理樹の恋愛観

 こんな冬の夜は好きだ。
 二木さんの体温が、凍える大気のなかで、じんわりと、確かに感じられるから。
 溶けてしまいたいくらい、という意味がよくわかる。
 ぼくたちという概念が、そのほかのすべてと隔てられている。
 ぼくとあなたでぼくたち、ではない。
 ただ、『ぼくたち』という単一の概念として、ぼくたちはここにある。
 僅かに赤みがかった髪。
 すう……すう、という、安らかな寝息。
 背中の傷痕。
 全てが愛おしく、それらの愛しさと僕がひとつの布団にくるまっている。
 不思議な感覚だった。

 夏のうだるような朝も、春の心地よい目覚めも、秋の涼しげな夜更けもいいけれど、今この瞬間が一番素敵だ。
 そう思えるのも、たぶん二木さんのせいだな。
 春がきて、夏がきて、二木さんと一緒に迎える朝は、もしかしたら、やっぱりとても素敵なのかも知れない。
 そう思うと、季節が巡るのだって、今から楽しみに思えてくる。

 春、か。

 次の季節は、どんな季節になるだろう?
 恭介やあーちゃん先輩はここを去って、新しい場所で新しい生活を始めるだろう。
 ぼくたちは3年生として、新しくやってくるであろう生徒たちを迎えるだろう。
 いわるゆ出会いと別れの季節、というやつだ。

 それから夏がきて、秋が来て、冬が来ると――そうか。
 今度は僕たちが、ここを去る日がやってくるんだ。

 急に、不安になった。

 そのとき、僕たちは、どうなるだろう?
 こんなにも別ちがたい僕たちは、それでも一緒にいられるだろうか?

 布団の間に、冷たい空気がしのびこんできた気がして、僕は布団の襟首をかけなおす。
 僕たちの体温を奪われまいとして。

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 ふと、恭介とあーちゃん先輩のことが脳裏を過ぎった。
 恭介のことは知らないけど……あーちゃん先輩の気持ちが、ほんの少しだけ、心で判った気がした。
 今の一瞬の――たぶん、これは切なさと言うんだろう――感傷。
 これをずっと抱えてきたのだ。あーちゃん先輩は。

 僕なら、二木さんにこんな気持ちを抱かせやしない。
 一体恭介は、何を考えてるんだろうな……。

 なんだか、恭介のことが判らなくなった。
 いや、判らないのは昔からか――なんとなく思う。
 恭介はいつも超然として、僕らの中心にいた。
 でも僕は、結局――結局? よくわからない形容だ――恭介の背中を追いかけてきただけだった。

 でも、それだけじゃだめだって、思う。

 思った。そして、すっと心が決まった。

 それなら――訊いてみよう。
 恭介に、今、何を考えてるのか、って。


俺も二木さんと添い寝してえ! ……と色々台無しな発言をしてみる。

初々しい理樹くんはいいなぁ。


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