直枝とつきあうようになってから、その印象が変わった点はいくつかある。その筆頭に挙げられるのが、当たり前と言えば当たり前なのだが、ちゃんと男の子しているごつい手だった。
ああ、男の子なんだな、と妙に納得したりした。
もっとも、あれだけ暴れ回っていれば、人並み以上の筋肉があることは想像に難くないし、なにしろルームメイトはあの筋肉馬鹿の井ノ原だ。いくらかの影響もあるかもしれない。
ともあれ、脱ぐと凄いんです、というところは、あれだ、いやと言うほど思い知った。
厚い胸板は心地いい。
そういうと、直枝は「僕なんて大したことないよ」と言うのだが、そんなことは私には関係ない。
直枝の胸板は、私がすがりつくことができる、ただひとつの場所なのだ。
いちど、「胸板フェチ?」と問われて、その場の雰囲気で何となく肯定してしまった。直枝に関してはその通りだし、他の男はそもそもフェチという概念を適用するドメインにないので、結論として私は胸板フェチと言うことになるだろう。そんなに間違ってはいない結論だろう。なにより、これ以上サンプル数を増やすつもりもないのだから、仮の結論と置くほかない。
話の流れで「それじゃ直枝は何フェチなのよ」と訊いてみたところ、もごもごと口籠もったあと、「む……胸?」と言われた。その答えもひどく男の子っぽいというか、女からしてみればこんな脂肪の塊、重いだけで何の役にも立ちやしないのだけれど、なんだかおかしくなった。
なんというか、手つきでそんな予感もしていたのだけれど。
くすくすと笑うと、直枝はちょっと不満げに「胸フェチはお互い様だよね」などと言う。なんだこのやろうと思ったけれど、言われてみればその通りだ。特に胸板なぞ、男子が好きこのんで意識するはずもない。そこは要するに、お互い、男と女なのだ。
「要するに相性がいいって事かしら」と返すと、直枝はきょとんとして、それから「ま、そういうことだよね」などと宣った。そんなのも悪くない。
ピクルスをおいしくするつくりかた運用試験。
何か甘くなりきらないなぁ、などと悩んでみたり。