果物と湯たんぽとおやすみのキス

 仕事で遅くなるときは、先に寝ていてもらうことにしている。

忙しいときは午前様の帰宅が普通だし、理樹は夜が遅くても朝きっちりと起きるから――朝ご飯は理樹の担当なのだ――それで眠そうな顔をされるとこっちが辛い。そういうと、いつかの理樹は苦笑していたと思う。

 そっと扉を閉めて靴を脱ぎ、廊下に小さな灯りを点して部屋を覗く。ベッドの上で理樹は、すやすやと寝息を立てていた。まったく幸せそうな顔だ。

 脱ぐものを脱いでさっとシャワーを浴び、バスローブを羽織るとダイニングに向かい、冷蔵庫を覗く。こういう日には軽い果物を切って入れておいてくれるのが理樹の心遣いだ。何も入れないのも体に悪いし、これならあんまり太らないですむ。それを口に入れると、冷たさと酸っぱさが体に染み渡った。

 皿をさっと洗って水切りに置くと、湯たんぽを取り出して電子レンジに放り込む。冬はこれがないと寝られない。暖房は喉に悪いから、できるだけ使わないようにしているのだ。タイマは2分と30秒。こちこちと時計の秒針の音が響く。静かな夜。その音を数える。

 タイマが「1」になったところで取り消しボタンをぴっと押して止める。こうすると、できあがりのうるさい電子音が鳴らない。理樹を起こしたくなかったから、これはいつものクセ。

 湯たんぽを布にくるむと、バスローブを洗面所の洗濯籠に放り込み、電気と足音を消して寝室にしのび込む。暗い中、見ずとも判るベッドの位置、理樹の横に潜り込んだ。布団は理樹の体温で必要かつ十分に暖かい。これなら湯たんぽは要らなかったかもしれないとも思うけど、一度実験したら風邪をひいた過去がある。

 未だに童顔じみた理樹の顔がすぐそばにある。その頬におやすみのキス。そうして彼の隣に横たわると、疲れと眠気の連合軍がどっと押し寄せてきて、私の意識はすっと闇に引きずり込まれた。一日の終りの小さな幸せ。

 おやすみ理樹。


 フウハハハー、ホント年末進行は地獄だぜ!

 そんなストレスを直接的にぶつけた感が顕わなアレですが如何でしょう。。。


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