クリスマス・パーティ!(1)

「それではいっちょ景気付けに、クド公っ!!」
「はいっ!」
 ぱぱぁん!
 能美さんと三枝さんがクラッカーをならすと、わあっと皆が歓声を上げた。

 男子寮、直枝君と井ノ原君の部屋、要するにリトル・バスターズのたまり場たるここ。もちろん、私が入ったのは、今日が初めてだ。

 その歓声が収まらないうちに、棗君がひときわ大きく声を上げる。
「それじゃみんな、今日は天野も含めて……楽しもうぜ。メリー・クリスマス!」
「「「メリー・クリスマス!!」」」
 唱和してグラスをぶつけ合うと、またクラッカーが鳴った。
「いやっほーう!」
 宮沢君だ。やもすると井ノ原君よりアホの宮沢君が、クラッカーをばんばん消費している。飾り紙が宙を舞い、わずかな煙がパーティに華を添える。
 グラスを傾けると、ご禁制の代物が喉を焼く。うむ。いい気分だった。

「あーちゃん先輩、羽目外しすぎないで下さいよ」
「大丈夫、わかってるって! ハレの日のご禁制はっ!」
「「見ざる言わざる聞かざる」」
 かなちゃんと直枝君が復唱した。
「上限度数はっ!」
「「3パーセント」」
「よろしいっ!」
 頷いてまた一口。寮会裏規則その1及び付則。今回は、運用する側にも運用される側にもある私たち、やり放題な立場ではあるが、一応その規則は守っている。はずだ。
「天野さん、七面鳥食べますか?」
「ああ、能美さん、ありがとう。いただくわ!」
 えきぞちっくを自称する家庭科部員・能美さんの大活躍で、実にパーティパーティしている食卓だ。もちろん、私や二木さんも一緒に作った。

 せっかくのパーティなのだ。存分に楽しみたい。
 それに、棗君もいるのだから、主張するチャンスでもあるし。

 と思っていると、
「お、このホワイトシチュー、旨いな」
 棗君が云う。よしっ!
「それは天野さんがつくったのですよ」
 ナイスフォロー能美さんっ!
「へえ、天野がか。やるじゃないか」
「シチューの元を使ってないのよ。いちから手作り。なかなかのものでしょ?」
「自分で言うなって……だがまあ、腕は確かのようだな」
 その笑顔! 心の中でガッツポーズ。しつつ、ごく当たり前のような顔をする。
「このくらいなら、いくらでも作れるわよ」
「へえ、そいつは心強いな」
 言ってまたホワイトシチューに戻る。その姿にちょっと見入った。

「あーちゃん先輩」
 かなちゃんの声で我に返った。
「顔、ものすごくにやけてますよ」
 かぁっと血が上る。
「そ、そりゃまあ、つくったものをおいしく食べてもらえれば、幸せよね!」
「俺は食べてるほうが幸せだな」
 その棗君の言葉が追い打ちだ。たぶん自覚してないだろうところが憎らしい。
「これだから男の子はねっ」
 言ってグラスを呷る。呷ってむせた。げほげほとやると、かなちゃんがティッシュを差し出してくれた。その向こうで棗君はホワイトシチューをほうばっている。やれやれだ。

「天野先輩からすると、恭介も『男の子』なんですね……」
 感慨深そうに直枝君が言う。
「そりゃあ、そうよ。同期だからね」
「バスターズには、いないですからね」
「ま、兄貴分ってとこよね。あの棗君が」
「あのってのは何だよ、天野」
 不満そうな顔で棗君。反撃のチャンスだ。
「あの悪ガキがって意味よ。1年の春の……」
「あーあー、悪かった。俺が悪かった。すまん天野」
「判ればよろしい」
 皆まで言わんと降参だった。

「恭介氏がやりこめられるとは、なかなか珍しい図だな」
「デスネ。姉御と恭介さんは、無敵キャラで通してますからネ!」
 来ヶ谷さんと三枝さんが、興味津々とばかりにこちらを見て言う。
「あら、騙されてるわよそれは。棗君も兄貴風吹かせすぎじゃないの?」
「ふっ……あの頃の過ちは、そうは繰り返さないさ。人は成長するものだぜ、なあ、理樹?」
「え、あ……そ、そうだね」
 直枝君が同意する。
「確かに、恭介が1年生の頃のことは、あまり知らないな」
「興味あるなら、教えてあげまようか?」
「シャラーップ天野!」
「貸しひとつね!」
「それを人は脅迫というんだぞっ!」
 棗君の額に汗。まあ、アレを全部バラされると思えばそれも無理ないことだろう。にゅふふ。
「恭介さん、またやりこめられてるねえ」
「なのですっ」
 三枝さんと能美さんが顔を見合わせて笑った。


 あーちゃん先輩、リトルバスターズに来る!

 続きます。


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