クリスマス・パーティ!(2)

 かなちゃんと直枝君によると、この手の集まりはなにかの機会につけて行われているという。近いところだと、かなちゃんたちの誕生日(これは10月13日だ)や10月31日のハロウィンなんかのイベントがあったそうだ。
 ちなみにハロウィンにあたっては、巨大カボチャを買ってきては中身をくりぬいてジャック・オ・ランタンを自作、その中に蝋燭を点し、あとはひたすらお菓子を食べていたという。広大な学生寮を舞台にしたトリック・オア・トリート計画が却下になったのは、かなちゃんのいささか冷ややかな説得の結果であったらしい。

 そんな勢いだから、バスターズのこのクリスマスパーティも、がっつり気合いが入っていた。
 女の子陣の手作り料理の数々、紙リボンにふわふわの綿、星やトナカイやソリのオブジェにデコレートされた部屋も目を惹くが、なにより圧倒的な存在感を放っているのが、本物の――生きている――もみの木を使ったクリスマスツリーだ。天井の高さのほぼいっぱいの若木に、きらきらと七色に輝く電飾が施されていて、そのてっぺんには大きな星が飾り付けられている。例によって棗君がどこかから調達してきたのだそうだ。重要かつ無駄なところで発揮されるバイタリティはさすがという他ない。

 そしてもうひとつ、非日常を演出しているのが――皆の装いだった。壁にもたれかかり、グラスを手にしたまま、ひとりひとりのその姿を眺める。

 まず、棗兄妹がサンタクロース。コート、ズボン、帽子の赤を、白いふわふわが縁取る王道スタイルだ。棗君はそれに長いつけ髭、棗さんはどっさりとお菓子の入った真っ白な袋を背負ってご満悦だ。
 井ノ原君と宮沢君はいつもの格好だけれど(これはポリシーなのだろう)、ふたりともなぜか頭にお星様のかぶり物。結構大きい。ガタイのいい肉体派ふたりがお星様とは、頑張って好意的なことを言えば、なかなか印象的なバランスだ。
 能美さんはどういうわけだか、犬耳をつけている。犬ぞり? まあ、三枝さんチョイスだろうが、こんなに犬耳が似合う子もそうそういない。自然体過ぎて、ほとんど仮装になっていない。
 その三枝さんはなんと、キリスト教カトリックの神父の格好をしている。そんな服どこで手に入れたんだとか、宗教的真摯さの問題とか色々あるけど、ここは敢えて突っ込まないことにしておこう。日本人の宗教観だから、まあ、そんなものだ。ドラクエだってそうだし、なんて。
 話を戻して、神北さんは、雪だるま――これは着ぐるみで、まんまるとあったかそうだ。赤いマフラーと黒いシルクハット。手袋にステッキはさすがに外して横に置かれていた。
 西園さんは淡々と鼻眼鏡。クリスマスとさっぱり関係ないあたりがシュールだ。
 来ヶ谷さんは棗兄妹と同じサンタクロースだけど、こちらはスカート、おまけに超ミニ。おっぱいぼーん((C)三枝葉留佳)のうえにこれだから、もうどうなんだ――とは思うが、皆慣れたもので、一通りツッコミを入れるとあとは誰も気にしなくなった。
 直枝君とかなちゃんはといえば、ふたりでおそろいのトナカイの扮装だ。オンナノコ向けの短いワンピースの下にジーンズ。ツノのついたカチューシャ直枝君にしたら女装だ、これは。おまけに直枝君の鼻には赤い球体がつけられている。真っ赤なお鼻のトナカイさん、というわけだ。中に豆電球でも仕込んであるのか、ぼんやりと光を放っている。熱くないのかな、あれ。

 そんな彼らが、ひとつの部屋に集まって、わいわいがやがやとメリー・クリスマスだ。正直ちょっと突き抜けすぎているような気もするけど――ともあれ、料理に衣装に装飾にと、まったくここまで白熱したクリスマス・パーティははじめてだった。
 そして私はそのとき、なるほどと、はじめて腑に落ちた。これがリトルバスターズなのか、と。

 楽しむためには全身全霊――この青春<イマ>を駆け抜けろ。

 小さく息を吐くと、BGMに小さく鳴らされているクリスマス・キャロルが急によく聞こえだした。やわらかなメロディが心地いい。顔が火照っている思ったよりお酒が回っているようだ。やっぱり緊張してるのかも、私――。

 緊張? そうだろうか。
 その表現は何か違う気がした。こんなお祭りの場にいて、たのしい、不安、わくわく、どきどき、そして恋、そういった類の色々なアンバランスがないまぜになって、気分がすっごく高揚している。そこにアルコールがしのびこんできたのだ。

 ほんとうにアルコールの回ること回ること――これは少し頭を冷やしてきた方が良いかもしれない。そう思って立ち上がる。


 昨日の続き。おそらく(3)で一区切り。

 またまた続きます!


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