インターミッション:一月をめぐる概括

 1月は緩慢に足早に去った。

 この学校は一応の進学校であるので、高校3年生で年明けとなれば当然、一月半ばの一大決戦、センター試験対策講座ということになる。学年主任、組担任の先生は当然のこと、各教科担当は模擬試験にワークシートにと駆けずり回っていて、端から見ているだけでもお疲れ様ですというばかりだ。

 もちろん、センター試験が終わっても、二次試験に向けた最後の追い込みは続く。景気の悪い話しか聞こえてこないこのご時世、どうせ大学に行くなら、いい大学へ! というのも判らないではない。実際、友人の多くは必死こいて勉強中だ。やれやれ、こういうのを仲間はずれ気分というんだろう。

 ともあれなにしろ、そんな状況だから、数少ない就職組たる私たちは、とりあえず自習、という名目で基本的には放置される。まあ、大学生活を謳歌できる(うまくいけば、だけど)彼らと違って、新社会人になる私たちにとっては、この3ヶ月間は、猶予期間――青春の最後の1ページ、というわけだ。

 その最後の1頁を、私たちは――これは私と棗君、という意味だ――惜しげもなくリトルバスターズにつぎ込んだ。

 もちろん冬となればウィンタースポーツ。近くにスケート場があるのでそれがメインだけれど、週末には2回ほどスキーにも行った(寮会がスキー板とウェアを貸し出しているのだ)。雪が降れば雪合戦にかまくらづくり。それからこたつで鍋、鍋、鍋!

 まあ、これはスポーツじゃないけど。あとみかん。

 近頃の特筆すべきイベントと言えば、2月3日の節分の日で、もちろん、鬼は外、福は内と豆を撒く。だが、そのままでは終わらないのがリトルバスターズのリトルバスターズたる由縁、そのまま鬼ごっこと相成った。

 鬼が誰かをつかまえても、鬼は鬼のままで鬼が増えていく「増え鬼」、遠距離攻撃を可能にした「ボール鬼」のコンビネーション、しかもそのボールの代わりが豆ときたものだ。飛び交う豆の嵐、鬼ごっことは思えぬ短期決戦で、これはさすがに豆がとっちらかりすぎて、かなちゃん怒髪天を突くといった次第になった。もっとも、直枝君がまあまあといなして、鶏小屋の鶏たちを使った巧妙なる豆大掃除作戦が大戦果を収めると、二木さんもまあ納得せざるを得ない、ということでしぶしぶ引き下がったのだけれど。

 そしてその夜は、みんなで手作り恵方巻と相成った。あの黙って太い巻き寿司をひたすら食べるやつ。男の子達が競い合うように巨大な恵方巻を作っては頬張っていくのを(ちょっときたない)、女性陣は冷やかし半分で眺めて楽しんだ。材料は港に揚がったいいものを朝市で仕入れたから、最早太巻きじゃないわよねこれってな味で、私たち女性陣は、一応の願掛けをすませると、あとは日本茶片手に和食会といったふぜいだった。

 しかしあれだ。

 恵方巻なんていうのは、所詮は大阪船場のローカル行事に過ぎない。しかも発祥は幕末、その歴史はたかだか150年だ。お正月とかに比べればなんと歴史の浅いことか! みんなセブン・イレブンのマーケティング戦略に踊らされすぎなのよ!

 と、八つ当たり気味に考えてはみたものの、我と我が身を振り返ってみれば、まったくそんなことは言えた義理じゃないことに気づく。マーケティング戦略って言ったってね、実際私も踊らされてるじゃないか。

 踊らされていると言っても、それはもちろん、セブンイレブンの恵方巻戦略のことではない。私が不安まみれで心待ちにしているのは、2月3日の節分の日から10と1日たったあの日。製菓業界のこじつけと笑わば笑え。そう、それは――

――恋する乙女の決戦の日、聖ヴァレンタイン記念日だ。


 さて、時間軸がいくらか飛んで、次の大イベントが差し迫るッ!!

 どうするあーちゃん先輩!?


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