夕刻。
パーティの後片付けはみんなに任せて、校門のところまで二木さんと葉留佳さんを送る。
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「今日はありがとう、直枝」
祭りのあとの穏やかさで二木さんが言った。
「楽しかった。本当に」
「うん」
東の空から星空が見えてきていた。
もうすぐ夜が来る。
それを一緒に過ごせないのは残念でもあるけれど。
二木さんの顔をちらりと見る。
同じことを考えてくれている――といいなあ、と思う。
と、
「あーもーーーーーーっ!!」
絶叫が秋の空に響き渡った。
「ちょっと、五月蠅いわよ葉留佳」
「まったくおねーちゃんと理樹くんは放っておくとすぐにラブラブ空間を展開するんだから放っておかれるこっちの身にもなってくださいヨ!」
そして、びしっと僕のほうを指さす。
「彼氏の責任!」
「うわ、僕ひとり?」
「おねーちゃん無罪!」
見ると二木さん、ちょっと顔を赤らめてらっしゃる。
「理樹くんそこ顔がニヤけてますヨ!?」
「いやその……ごめん」
二木さんは相変わらず、葉留佳さんに強いんだか弱いんだか。
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やがて遠くから車の音がして、校門の前に小さなセダンが止まった。
「よ」
手を挙げながら運転席から出てきたのは晶さんだった。
「迎えに来たぜ、こっちは準備万端だ」
「それじゃ……」
二木さんに視線を向けた。
「家族で誕生日パーティ、楽しんできて」
「うん、ありがとう」
二木さんが後部ドアを開けて乗り込んだ。
そのドアを閉めようと――瞬間、誰かが僕の背中を乱暴に押した。
「うわっ!!」
「ちょっと、直枝!?」
無様に二木さんの上に倒れこむ僕の後ろで、バタン! ドアが閉まる音。
助手席に誰かが滑り込んで叫んだ。
「おとーさん、ミッションコンプリート!」
「よっしゃ!」
晶さんの声が言うなり、ガチャリ! 四方からの音。
ドアがロックされた!?
「ってなわけで直枝、『家族で誕生日パーティ』、お前も参加な」
「え、ええーっ!?」
ブルン! エンジン音がして車が震えた。
「そりゃお前、俺の娘に手を出しといて今更――なぁ?」
「お、おとーさん目が笑ってないデスネ!」
「ったりめーだ。さて行くぜ!」
アクセルが踏まれた。
景色が流れ出す。
視界の端で校門が遠ざかっていく……。
「葉留佳……あなた謀ったわね?」
僕の下で二木さんが低い声。
「いやー、当然のことをしたまでデスヨ!」
「「はあ……」」
ため息は同時だった。
「僕、校外宿泊申請出してないよ……」
「風紀委員行きね」
声が冷ややかだ……。
「寮会で書類を捏造、とかできないかな」
「その発言が風紀委員行き……」
ためいきがまたひとつ。
「……まあ、いいけどね」
ちょっとだけ笑顔になった。
「せっかくだから、楽しみましょ、直枝。それと」
「なに」
「そろそろ重いんだけど、どいてくれないかしら?」
かなたんに関する短編群、例外編でした。はるかなはぴば!