Rewriteアフター、あるいは「そんな、とある幸せな朝のこと。」


 ジュウジュウ、とフライパンが心地のいい音を立てている。
 ひんやりとした空気に、コンロの火が温かい。
 しばしフライパンを焼けるにまかせ、あたしはその火に手をかざしてみる。
 夏は遠く過ぎ、朝はずいぶんと冷えるようになった頃だ。

 風祭は山深い森の街。
 都会ではまだまだ暑いと聞くけれど、この町ではもう、ずいぶんと秋も深まっている。
 季節は変わっていくのだ。

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 瑚太朗君の担当はサラダだった。
 今日は大根を千切りにして、千切ったレタスに載せ、トマトを添えてある。
 切る、ことはなんだかんだいってそれなりに上手い。
 あたしのベーコン・エッグと、それにトーストとヨーグルト、チーズで洋風の朝ご飯になる。
 イングリッシュ・ブレックファーストっぽく、でもちゃんとおいしい。
 パンというのは、ちょっとトースターにかけるだけで、どうしてこんなにおいしくなるのだろうと、いつも不思議に思うのだ。

 休みの日には、こうしてあたしの家で朝ご飯を食べることにしている。
 瑚太朗君のご両親は、なんとか人並みに家に戻るようになったし、あたしの家には――両親がいないので、ちょうどいいのだ。
 そのあたりの事情も全部分かって、笑って流してくれるのは、ほんとうに有難い。

「通い妻の逆って何て言うんだ?」
「うーん……たかり?」
「ひでえ!」

 瑚太朗君はあたしの答えに大げさに笑ってみせた。

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「そういや、そろそろ収穫祭の時期だよな」
「うん」

 食後のまったりとした時間。
 そんな会話に、ふと……去年の収穫祭を思いだす。
 あのときも、たしか、ふたりで回ったのだった。
 ひたすら買い食いをして、瑚太朗君におごってもらって。
 楽しくはあった、けど、それは後ろめたさと表裏一体で。
 隠し事を――お互いに――していた。
 手を繋いでいても、越えることのできない壁があった。
 でも、今なら。

「一緒に行こうね」
「もちろん」

 瑚太朗君の返事は、すこしだけシリアスモードだった。
 多分、似たようなことを考えていたのだろう。

 オカルト研究会のみんなには、結局あれから一度も会えることはなかった。
 鍵は去り、闘争は終わった。
 だからといって平穏な時間に戻れるわけではないのだ。

 それでも、あたしと瑚太朗君は、なんとか日常と言える場所に戻ってきた。
 おそらくは、10年以上ぶりに。
 大切にしたい、と思う。
 あたしの手に残されたものは、ただ、それだけなのだ。美しい、ひとつぶの欠片。
 だから、どうか、この幸せな時間が、いつまでも、いつまでも続きますように、と。
 失ってしまったものの耐えがたい痛みとともに、あたしはそんなことを思った。祈った。

 そんな、とある幸せな朝のこと。


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