ニューロマンサーの空


 港の空の色は、空きチャンネルにあわせたテレビの色だった……というのは、『ニューロマンサー』という昔のSF小説の出だしの部分だ。
 ニューロマンサー。ネクロマンサー(死人使い)とニューロン(脳神経)を組み合わせたその題名に、なにか得るものがあるかと思って、ずいぶん昔に読んでみたことがあるのだ。
 そのあては外れたけれど、小説としてはずいぶん面白かった。昔のひとには、未来というのはこのように見えていたらしい。現実には、超人戦士と魔物使いの、星の運命をかけた死闘。ハードSFとは言い難い。現実は想像以上にファンタジーだった。

 そんな感想はさておき――そう、空きチャンネルに合わせたテレビの色、だ。
 昔のTVの、どのチャンネルにもあっていない、灰の砂嵐の色。
 色だけではない。
 空はまるで、空きチャンネルに合わせたテレビそのものだった。
 きちんとチューニングすれば、そのままなにかの番組でも映るのではないかと思えるほどに、空は空虚で平坦だ。

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 あたしはベランダにでて、夜空を見上げた。
 満月が天頂近くにぽっかりと浮いている。
 丑三つ時である。

 ――その月は、やはり、あまりにも作り物のように胡散臭い。ちゃちなオモチャみたいだ。
 ひどくうすっぺらい。
 うさぎが餅つきをしていても違和感がないほどに、嘘っぽく見える。

 近頃はずっと、こうなのだ。
 空に、現実感がない。
 ガラスの板を通したような、テレビの向こう側をのぞき込んでいるような空。
 テレビの――向こう側から誰かにのぞき込まれているような、空。

 ひどく寒気がして、ぶるりと震えた。
 温かい布団に戻るべきだが、それでは満ち足りない予感がある。
 なにか……いや、誰かの温かさが必要な類の悪寒だ。これは。
 あたしは隣家、瑚太朗君の家を見上げた。
 ご両親はもう眠っているだろう。
 正面玄関を使わずとも、忍び込むのは容易いことだ。


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