恋心/外宇宙船団機構


 その組織の名は、外宇宙船団機構という。
 ガーディアンの強固な組織力で、ガイアの――いのちを使う技術を運用するために。
 2つの組織が統合された、ハイブリッドの機関だった。

 統合当時は、単に「両組織同盟」と呼ばれていたのが、今の名前に改組されたのが、何年か前のことだった。
 その引き金になったのが――他の誰でもない、瑚太朗君だった。

 瑚太朗君のマスターである、という理由で、機構ではあたしは顔パスだった。
 ほんとうはあたしたち(つまり、オカ研の、という意味だ)5人でひとりのマスターになるはずだったのだが、マスターの力はなぜだか――なぜだか、だ――徐々にあたしのところに収斂していき、瑚太朗君が召喚された3週間後にはもう、瑚太朗君の使役は、あたしにしかできないこと、になっていた。

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 そして――おそらくは、これは偶然ではあるまい――あたしの「記憶が戻った」のも、まさにその3週間のできごとだったのだ。

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 夢をみた、気がしてぼんやりとした目をこすった。
 窓の外には、まんまるな月が浮かんでいる。西の空に傾きつつあるが、明け方と言うにはまだまだ早い時間だった。
 夢の中では、あたしはなぜか、瑚太朗くんと収穫祭……らしき祭りを回っていた。
 らしき、というのは、その場所は確かに祭りではあるのだけれど、今ではもう使うことが許されない、科学技術時代の遺物がそこかしこに並んでいた。
 石油の一種を燃やして走る車さえあった。現実にあんなものを動かすなど、到底あり得ない。だからこれは夢なのだ、と根拠をもって確信できた。

 でも、その夢のなかであたしが抱いていた感情は、その断片があたし自身のなかにあるとは到底考えられず、しかし余りにも……余りにも切なく、密やかで、激しかった。

 あたしはポチに恋心を抱いていたのだ。

 それを誰にも言うこともできず。
 ましてやポチ本人に言うことはできず。

 その激しい炎を内に秘めたまま、夢の中のあたしは、ただ笑っていた。

 大道芸に笑い。
 ビッグバンドの演奏に聴き惚れ。
 屋台のフランクフルトを頬張り。
 二人で収穫祭一色に染まった町を歩きながら。
 それはすごく楽しくて。
 でも、裏腹にあたしの心は、誰にも言えない秘めた想いで、今にも涙が溢れそうになっていたのだ。

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「瑚太朗君……」

 見慣れた自分の部屋、朝陽の射すベッドで今日も目を覚ますと、あたしはそう呟いた。
 今、その名前で彼を呼ぶことは、叶わない。
 それは、あたしの記憶の中だけの名前だった。
 だけど、本当は、ポチは、瑚太朗君なんじゃないか。
 そう考えると心が震えた。
 ただ、逢いたいと思った。

(『機構』に行ってみようかな……)

 覚めやらぬ心は、そんなことを思っていた。
 説明もいいわけもない、おそらくは極めて原始的な、それは欲望だったのかも知れない。
 


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