恋心/外宇宙船団機構(2)


 外宇宙航行船団機構は、植物型の魔物に覆われた、コンクリート製のピラミッドの形をしている。
 なんでも、昔は『マーテル会』というガイアの渉外団体の本部だったのだそうだ。
 古い高層ビルには、今はもう住む人もいないけど(誰があの階段を歩いて登る?)、機構本部はそんなに高い構造物ではないから、『変化』のあとでも再利用されているのだ。
 それはもしかしたら、並び立つ墓碑のなかの、ちいさな墓守小屋のようなものなのかも知れないけれど。

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 瑚太朗君は、機構の地下ホールのまんなかで窮屈そうに枝葉を広げていた。
「もうここもずいぶん狭いねえ」
「コトリか」
 するりと枝葉を体にしまうと、瑚太朗君は床を蹴り、ホールの入り口のあたしの前にひとっ飛びに飛ぶ。
 かつん、と靴が小気味いい音を立てた。
「上のホールの方がいいんだがな。この格好になればふかふかの椅子に座れる」
「ここは不粋さねえ……邪魔しちゃった?」
「マスターに邪魔もなにもあるか」
「へへえ……」
 にへら、と笑ってみせる。ずきり、と心臓のあたりが痛む。と、瑚太朗君はふと表情を暗くした。
「……マスター、何か気に障ったか?」
 、、あたしたちは、赤いリボンで繋がっているのだ。深い、深いところまで。
「ポチは気にしなくていいよ。あんがと」
「それならいいが……塔にでも登るか?」
「うんうん、そうしよう。今日は遠くまで見えそうだ」
「見たいものがあるなら連れていくぞ」
「ううん、いいの。行くときは自分の足で行くんさ」
「それじゃ、こっちが形無しだ」
「本当に遠いところに行くときは、ね!」

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 『塔』は、瑚太朗君には全く程遠いものの、昔の『機構』……というかガイアが作っていた、大樹型の魔物だ。
 一応、星間航行を目指してはいたらしいけれど、静止軌道すら安定して投入するのが難しかったらしい。
 今では機構本部のシンボルとしてピラミッドのうえにそびえ立っている。
 巨大な墓石たちよりもさらに高い『塔』からは、山々を越え、遠くには海すら見え、夜になると星々のきらめきがすこしだけ近くに見える。

 バスケットを開け、ポットのお湯でお茶を淹れる。
 サンドイッチとあわせて、ピクニック。
「美味しいな、今日も」
「まあたお世辞言っちゃって」
「嘘をつく必要はない。このあいだの食堂のパフェはひどかった」
「ああ、あの……激辛パフェ……」
 ルチアはなぜか好物なのだけれど、ほんとにあれだけは理解できない。一口もらったちはやちゃんが目を回していた。
「あれよりは、全然おいしいぞ」
「あんさん、比較対象がおかしいよ。プリプリしちゃうよ」
 冗談を交えながら、それでも瑚太朗君が嘘をついていないことはわかる。
 あたしたちは繋がっているのだ。

 ……ふと、

 こんなふうに『瑚太朗君』になにか食べてもらったこと、あったのかな、と考える。
 『記憶』にはない。
 とするなら、なかったのだろう。
 当時の記憶はひどく孤独で、あたしは独りで、最後まで独りで抱え込んでいたものもあった。
 瑚太朗君に話をすることができないまま、、世界は終わってしまったのだ。
 そして今、瑚太朗君はまたこんなに近くに、でも星々ほども遠くにいる。
 そしてこのまま、瑚太朗君は『船』になって……

 あたしの気持ちを知ってか知らずか。
 いや、良くも悪しくも感覚が伝わらないはずはないのだけれど……
 瑚太朗君はサンドイッチを食べ終え、げっぷをすると、ごろりとあたしの横に寝転んだ。

「いい天気だな、コトリ」
「そう……だね。うん」

 まるで瑚太朗君の真似をするように、あたしもまた瑚太朗君の横に寝転がった。
 空の彼方には太陽が高く輝いていて、あたしと瑚太朗君を優しく照らしている。
 でも、遠くない未来、あたしたちは、あの太陽のもとを離れて、遠く旅立つのだ。
 瑚太朗君は船として。
 あたしはその、、操舵手として。


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