迷宮(1)


機構の伝書リーフバードが今宮さんの手紙をもってきたのは、それから数日後の土曜日の気怠い朝のことだった。

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 機構本部のピラミッドとは離れた、旧風祭高速道路中央環状線、東インターの近くに、その建物はあった。

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 あたしは、こわごわとあたりを見回しながら、今宮さんの後をついて廊下を歩いていた。その廊下のここそこに、ぎらりと光るレンズや黒々とした銃口が見え隠れしている。もちろん、あたしの目に見えているのは、全体からしたら、どうでもいいようなごく一部に過ぎないだろう。
 今ではもう完全に機能を停止しているとはいえ、かつては科学技術の粋を尽くして異物を排除していたであろうそれは、言うまでもなく要塞だ。

「大丈夫だって。こいつらは完全に死んでるし、何かあっても俺が一緒なら無事に通れる。そんなにセキュリティレベルは高くないからな」

 この建物の一番奥に伺うのは、どうやら遠慮した方がよさそうだった。

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 今宮さんに連れられてたどり着いたのは、そう、一番近い表現をするなら「書庫」、とも言うべき空間だった。
 体育館を軽くしのぐ巨大な地下空間に所狭しとスチールラックが並べられ、その間を右に左にキャットウォークが走り、梯子があちこちに立てかけられ、比喩ではなく迷路のような空間だった。
 そのスチールラックのほとんどが、紙の資料やら段ボール箱やらで埋め尽くされていた。
 段ボール箱。
 科学技術文明の遺産だ。

「魔物を使えばいい、と思うだろ」

 ここの管理のことだろうか。
 まさか。

「自分で探すんですか!?」
「セキュリティ上な」

 まじか、と顔がこわばるのが自分でもわかる。

「ま、俺はごく一部の資料の場所を抑えてるだけだけどな。どんな資料がどこにあるのか、もう誰も、ほとんどわからない……ついてこられるか?」

 あたしはこくんと頷いた。
 森の遊びに比べれば、大したことはない。ルートさえ分かっているなら。
 キャットウォークや梯子が所々崩落しているのを見ながら考える。

「それならよし」

 今宮さんが手近な梯子に腕を伸ばした。

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 梯子を幾度か登り、キャットウォークを右に折れ左に折れ、何度か梯子を下りさえして、位置感覚をとうとう完全に失った頃。
 すっ……と今宮さんが足を止めた。

「今宮さん?」
「ここだ」

 言いながら右のスチールラックの、少し上の棚に手を伸ばし、ひとつのファイルを取り出した。
 そして、キャットウォークに座り込む。

「座んな、お嬢ちゃん」

 促されて、今宮さんの隣に腰を下ろした。ロングスカートでよかった。洗濯のことは考えないことにした。
 そして、

「ほれ」

 今宮さんは、手にしたファイルを無造作にあたしに差し出した。
 反射的に受け取って、目を落とし――真っ先に飛び込んできた
 その映像の、
 顔の意味に、
 あたしは、

「……瑚太朗君?」

 声が震えているのが、自分でもわかった。


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