収穫祭B


 隣を歩く瑚太朗君の姿は、このあいだの第13次船体拡散実験かまるて嘘のように、ごく普通の男の子そのものだった。

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 収穫祭は、当たり前だけれど、あたしのよく知るいつもの収穫祭で、楽隊のパレードやリーフバードの編隊飛行、ささやかな花火は上がったけれど、採れたての野菜や米、いつもより少しばかり豪勢な料理が広場に並ぶだけの、いつもの収穫祭だった。

 つまりそれは、夢に見るあの収穫祭の風景とは――学生の瑚太朗君とデートしていたあの収穫祭とは違う場所にあたしはいる、ということだ。

「コトリ、すごいものだなあ、収穫祭というのは」
「でしょう? 一年で一番にぎやかなお祭りなのさ」

 もちろん、楽しまない手はないので、精一杯楽しむのだ。
 でも、瑚太朗君の「コトリ」とあたしを呼ぶ声は、夢の中のそれとは少しだけ、ほんの少しだけ違っていて、それがあたしの胸のどこか遠いところをちくりと刺した。

「あの人だかりはなんだ、コトリ」
「うーん、なんだろうねえ」

 と、人ごみの中から、ぽーんとバトンのようなものが投げあげられた。

「ありゃ、大道芸人だねえ」
「ダイドウゲイニン? なんだ、それは」
「そりゃ、ボールとか箱とか輪っかとかを、その……」

 あれを言葉で説明するのは無理がある。

「見たほうが早いよ、瑚太朗君!」
「うお!?」

 腕をひっつかんで歩き出すと、不意をつかれたか、瑚太朗君は二三歩よろけてみせた。

「やるな、コトリ……」
「ほら、早く早く!」

 ――ふと見ると。
 瑚太朗君は、不敵な笑顔と、わずかな悔しさの入り交じった表情をしていた。
 妙に珍しい、表情だった。


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