焼きトウモロコシの焦げる醤油の匂い、


 大道芸人の出し物が一段落して、あたしたちは人混みを抜け出すと、手近なベンチで一息ついた。

「すごかったねえ、あのひと」
「ああ。魔物でもなく、能力者でもない、人間。なかなかやるものだ」
「こた……ポチに言われると嫌味だよ」

 瑚太朗君は一瞬、あたしの失言を気にしたようだったけれど、どうやら流すことにしたらしい。

「俺は魔物だからな。人間の基準を理解はするが」

 特に変わった風もなく、あたしの言葉に応えた。
 あたしは余程、うまく取り繕っているんだろうか。
 ――自分は魔物だ、と断言されるのは、やはり堪える。
 こうして歩いていると、まるで普通のひとみたいなのに。

「どうした、コトリ」

 ……どうやら、心配させてしまったらしい。失敗だ。

「なんでもないよ」

 ひょい、とベンチから立ち上がる。
 ――ふと鼻をかすめる匂いがあった。
 思わず、鼻がひくついた。

「あれか」

 瑚太朗君が人外じみたスピードで反応した。
 目線の先には、屋台がひとつ。
 いくつかの質素な木製の丸テーブルに、丸太の形そのままの、椅子とも言えない椅子。
 それらが囲んでいるのは、小さなバーベキューセットだ。
 あの網の下では、きっと炭火があかあかと燃えているに違いない。

 そして、網の上で焼かれているのは、収穫祭の主人公、とれたての野菜たちだ。
 壮年の男性が、その野菜達にはけでなにかを塗っている。

「醤油かな?」
「オレには分からないが、コトリがそうだと言うなら、そうだろう」
「多分ね」

 これでも、料理には多少覚えがある。


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