森の真ん中で


 木々の緑がむせるような深い森が突然ひらけて、あたしは目指すべき場所にたどり着いたことを知った。
 簡素なテーブルと椅子、転がる道具箱 、奥のほうには手作りの小屋、そして大樹。
 いつかのあたしのアトリエのような場所。
 その夜のおそらくはまんなかに、篝はひとり、すらりと立っていた。

「■■■」

 彼女はそう言うと、そっとあたしにリボンを伸ばす。
 あたしはまるで握手のように、そのリボンを握り返す。

「……おひさしぶり、だね。篝」
「■■■■■■■■」
「うん」
「■■■」
「大丈夫だよ。そんなに遠くないよ」
「■■■■■」
「そう。瑚太朗君が連れてきてくれた」

 そう答えると篝は、すこしだけ……ほんの少しだけ、表情を浮かべた。
 それは、あるいは……思慕、のようにも見えた。
 小さく浮かべられる類の感情ではない。
 もしそう見えたらなら、それは意志の力で抑えられているのだ。
 そうでなければ、あんな顔ができるはずがなかった。
 逡巡し、あたしの口から出てきたのは結局、きわめて凡庸な一言だった。

「……どうしたの?」

 と、篝がぽん……と地を軽く蹴り、ひとっ飛びにあたしの目の前まで飛んできて、そのままあたしの胸に顔を埋めた。
 背中に腕とリボンが回される。優しい感触だった。
 温かな感触だった。
 不思議に思う。
 篝が、こんなにも――人間的なことが、今まであっただろうか、と。

「■■■■■■」
「見てほしいものがある?」

 こくりと篝は頷いた。
 この子が見せるもの。
 もちろん、怖れはあるけれど。
 あたしは篝の背中に手を伸ばした。

「いいよ、みせて」

 篝が「ありがとう」と言った……ような気がした、瞬間、景色がぶわりと漆黒に消し飛ぶ。


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