――車窓の鬱蒼とした木々のむこうで眩しい陽光が弾け――
海――
そう、気がつけば、遙か彼方まで続く海が、僕らの目の前に広がっていた。
「うわあ……!!」
おもわず声をあげた。
みんなも口々にその輝く光景に感嘆を漏らす。
「恭介……!」
「ああ」
しっかりと前を見て運転をしながらも、恭介は左手を……海のほうをちらりと見る。
「海だ――」
その淡々とした声は、これから始まる楽しい事に対する期待を隠し切れないかのように――僕には聞こえた。
ぶるりと震えてエンジンが止まると、一番に飛び出したのは真人だった。
「うおおおっ! 海だぜっ!!」
「待て真人、抜け駆けは許さんぞ」
冷静なふりを一応してみせた謙吾が、ばさりといつもの和装を脱ぎ捨てた。
「よし、準備完了だ――!!」
その格好のままで真人を追って走り出す。
鈴が僕の隣で目を丸くする。
「ふ、ふんどし……」
「だね」
「なんだあいつ、わけわからん」
「謙吾なりの水着……かな?」
「そうなのか……」
鈴は少し顔を赤らめている。
まあ、ふんどし。
確かにそうそう見る絵じゃない。
「……そういえば、一緒に海、来たことなかったよね」
「そうだったか?」
首をかしげる。
「ほら、プールだとちゃんと水着履いてるでしょ、謙吾」
「そういえば、そうだな」
「ちょっと遠いしね、海」
「うむ。プールは近いな」
「でしょ」
そんなことを言いながら、鈴はちらりと後ろを振り返った。
「あたしたちも着替えよう」
「そうだね。恭介は?」
「ん?」
いまだ運転席に座ってなにかごそごそやっていた恭介が振り返った。
ちらりと腕時計に目を落とすと――ふっと笑う。
「俺は車を見てるから、先に二人で着替えてこいよ」
「わかった。鈴、行こう」
「ん」
僕たちはそれぞれに自分のバッグを持って、車を降りる。
陽光が差す。
「暑いな……」
「うん。暑いね……」
「早く着替えて海に入ろう。きっとつめたい」
「そうだね。更衣室はあっちかな」
「そう書いてある。行こう」
鈴はとっとっと走り出す。
ずいぶん楽しそうだ。
うん、なにより。
僕は小さく頷いて鈴の後を追った。
ちらりと後ろを振り返る。
恭介が、早く行け、とばかりに手を振っているのが見えた。