2.ツーマンセル(1)


 授業が終わると、例によって恭介からメールが来た。
『学食に集合せよ!』
 せよ! って。
 これもいつもの事ながら、少し笑ってしまう大げさ加減だ。
 教室を見渡すと、真人と謙吾、それに鈴もケータイを見てそれぞれの反応をしていた。鈴の口が『わけわからん』と動くのが見えた。その顔がこっちを向いた。
「とにかく行こう、理樹」
「うん、そうだね」
 僕たちは三々五々、鞄を持って教室を出る。

 学食にはもう、恭介が待っていた。まるで、ずっとそこにいたかのような格好で椅子に座り、漫画のページを繰っている。その姿が、僕たちに気づいた。
「よう」
 声を上げると、漫画を伏せて置く。
「集まってもらってすまないが、今日の練習は中止だ」
「はあ? どういうことだよ」
「練習室がとれなかったんだ。今日は吹奏楽部が使うらしい」
 む、と謙吾が腕を組む。
「他に場所はないのか、恭介」
「さすがに音を出せる場所となると限られているさ」
「ふむ、仕方なしか」
「そういうことだ……そんなわけで」
 そこまでいうと恭介は、僕の隣に立つ鈴の顔を見た。
「鈴、たしかモンペチの残りが少なくなってきたとか言ってたよな」
「そういえば、そうだ」
「行ってこいよ。ちょうどいいだろ」
「まあ、そうだな。そうしよう」
「ついでにいくつか買い物を頼みたいんだが……」
「めんどくさい」
 鈴が一蹴する。
「そう言うなよ……そうだ、理樹、お前に頼もう」
「ええ、僕?」
「モンペチの限定商品があったら困るだろ」
「それはそうだ。人手がいる」
 鈴が粛々と頷く。
「そんなわけだ、理樹。買い物はお前たちに任せた!」
「任せた、って……」
「なんだ、不満か」
 鈴が少しむくれてみせる。
「いや、そういうわけじゃないけどさ……」
 なんか乗せられてる気がする。

 待ち合わせは女子寮前だった。別にたいした準備がいるわけでもない。5分も待つと鈴が少し足早に現れた。
「待たせたな、理樹」
「いや、そんなに」
 言葉を交わしつつ校門に向かう。
 空は晴れ模様だけど、吹く風に、ぶるり、と鈴が猫みたいに震えた。
「ちょっとさむいな」
「もう秋だからねえ」
「このさむさは冬だろ」
「冬はもっと寒いよ」
「うう……」
 いいながら肩に首を埋めた。
「猫はこたつで丸くなる、だね」
「あたしは猫か」
「猫っぽくはあるね」
「ううん……いっそ猫になりたい。猫になってこたつで丸くなりたい」
 相変わらず頭がなんというか、すっ飛んでいる。
「……そんなに寒いなら、マフラー使う?」
「持ってるのか?」
「一応。でもそんなに寒くなかったから……」
「くれ」
「くれ、って……」
 あげるわけじゃないし。
「まあ、いいか」
 鞄をごそごそと探ってマフラーを取り出す。渡すと鈴はいそいでそれを首に巻き付けた。
「そんなに寒かった?」
「そんなにだ」
「まあ、そりゃ……よかった」
 買い物のあいだじゅう、寒い寒いを延々聞くのは、ちょっと疲れるかも知れない。
 と、鈴が鼻をくんくんとひくつかせた。
「どうかした?」
「なんか……においがする」
 む。
「なんか汚したかな。ちょっと貸して」
「いや、そういうんじゃないが……まあいい。そんなに気にならなくなった」
「いいの?」
「大丈夫だ。それに寒い方がいやだ」
 思わず顔がほころんだ。
「それは鈴らしいね」
「そうだろう」
 なぜだか自慢げな鈴だった。

(続)


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