9.学園革命スクレボ


「な……なに、これ……!?」
 沙耶は愕然とした。目の前に階段があった。確かに一歩降りたはずの階段が目の前にあった。
「あたしは……階段を一歩! 確かに!」
 これが――時風瞬の革命装置<レボリュートリック>の力だというのか!?
 恐るべき体験だった。いや、体験したというより……この事態は、沙耶の理解を全く超えていた。
『あたしは奴の前で階段を登ったと思ったらいつのまにか降りていた』
 自分でも何を言っているのかわからないと思う。自分が何をされたのかまるでわからない。
 頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか……そんなチャチなものでは断じてない。これは――もっと恐ろしいものの片鱗だ。
「どうした? 動揺しているぞ朱鷺戸沙耶。『動揺する』それは『恐怖』しているということではないのかね」
 仮面の奥の時風瞬が、嘲る声で言った。
「それとも『降りなくてはならない』と心では思ってはいるが、あまりに恐ろしいので無意識のうちに逆に体は後ろに下がっていたといったところかな……」
「バカなッ! あたしは今たしかに階段を降りたッ……!」
 自分の声が震えていると判ったが、しかし沙耶はまた一歩、足を踏み出す。その瞬間、にたり、と時風瞬の口が歪んだ。懐に突っ込まれたその手が、指が、わずかに動く。

 カチリ――

(続)


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