「ああ……その……ええとっ……」
何を聞くべきか十分に自覚しないまま、沙耶はそいつを呼び止めた。
「何か?」
「いや…その参考までに聞きたいんだけど……ちょっとした個人的好奇心なんだけど」
そいつが振り向く。続きを目で促している。
「もし見つからなかったらどうするの? 『証拠』なんて見つからないかも……いや……そもそも革命装置<レボリュートリック>を使った殺人なんて、証拠なんて残りようがない。どう考えたって法律じゃ裁けない。力任せだって……あんなの、敵うはずがない。それなのに……あんたはどう思って………そんな苦労を背負い込んでいるの?」
「そうだな……」
問われてそいつは優しげに笑う。
「私は『結果』だけを求めてはいない」
そう言いきる。意味がわからない。沙耶は眉をひそめた。だがそいつはそれを気にせずに、続けた。
「『結果』だけを求めていると人は近道をしたがるものだ……近道した時、真実を見失うかもしれない。ヤル気も次第に失せていく」
「『真実』……?」
「大切なのは『真実に向かおうとする意思』だと思っている。向かおうとする意思さえあれば、例え今回は犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな………違うかい?」
淡々と語られたその内容だ。それが沙耶にはひどく壮絶に――尊く思えた。ぽつり、呟く。
「うらやましいわね」
その言葉を口にしてしまうと、思いが次から次へと口から漏れる。
「以前あたしは……ヒーローになりたいと思ってた……。子供の頃から……ずっとりっぱなヒーローに……なりたかったんだ……」
空を見上げる。空は変わらずに青い。あまりに青くて……まるでそのまま落ちてきそうな空だった。
「昔はあんたの様な『意思』を抱いていた事もあった………。でもダメにしちゃった……あたしって人間は………くだらない人間よ。なんだって途中で終わっちゃういつだって途中になっちまう」
「そんな事はないよ……沙耶」
「え……?」
「お前は立派にやってるじゃあないか……『意志』は同じだ……お前がヒーローになったばかりの時抱いていたその『意志』は……今、お前のその心の中に再び戻っているのだよ……沙耶」
沙耶は息を呑んだ。なんであたしの……
「なんであたしの名前を……知っているの……!?」