17.ツーマンセル(3)


 バンドをしよう――というのは、いつもどおりの恭介の気まぐれだったらしい。2,3度練習をして、とにかく音が出るようになって、僕たちの素人さ加減が――当たり前だけど――が判ると、恭介は、
「ま、じっくり練習だな」
とさらりとしたものだった。
 リトルバスターズの練習は週に2,3回になった。必然、特にやることがない日もできる。そういう時恭介はいつも、
「二人でどこか出かけてこいよ」
と言った。

 そんなわけで、僕たちは町を歩いている。木枯らしが吹く、いかにも寒々しい町を。

 とにかく行きつけのペットショップでモンペチを買い込んで(お一人様一個限定のものがあったから、二人できた甲斐はあったというものだろう)、そうするとやることがなくなった。
「とりあえず買い物は終わりだね」
「うむ」
 頷いてから鈴は、ちょっと付け足した。
「なあ、理樹」
「なに?」
「ちょっと……相談がある」
「相談?」
 ……相談?
 珍しいこともあるものだ。

 何度か行った喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ」
「ええと、二人で」
「承知しました。こちらへ」
 通された席は窓際の二人席だった。一階だけど、外の方が明るいから、中で僕たちが話している姿は通りの方からは見えないだろう。『相談』をするにはちょうどいい場所だった。
「……」
 メニューを開いたまま、しかし鈴はどこか遠いところを見ているようだ。しばらく待ってみるが、注文を考えている様子はない。
「何か適当に頼もうか?」
 こくり。頷く。
 ちらりとメニューを見て、ブレンドとミルクティー、それにクッキーを頼む。相談事ならケーキの類はあわないだろう。

 それらが運ばれてきてからも、鈴の口はひたすらに重かった。何も話そうとしない。
 まあいいか、と僕は思う。こっちにもこっちで、考えるべき事があった。

 恭介――に対する得体の知れない不信感。それも、かなり強烈な。
 あの僕たちの――5人の――修学旅行、海が見えたその瞬間、突然、完全に不連続的に発生した感情――。

「その……恭介のことだ」

 声に引き戻される。いつの間にか鈴がこちらを見ていた。
「恭介……?」
 まだぼんやりとした思考が元に戻るのにしばらく、それが『相談』のことだと理解するのにまたしばらく。
 僕が言葉を飲み込んだと見るや、鈴は続ける。
「海に行っただろう」
「うん」
「あれ以来……なんか、へんだ」

(続)


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