18.革命装置(2)


 海での鈴の態度から少なからずそうかも知れないと思っていたけれど、こうして話を聞いてみると想像以上だった。
「同じだ……」
 そう口にすると、どっと疲れが体に押し寄せた。

 あの瞬間――車窓から海が見えたあの瞬間――何かが決定的に切り替わったのだ。それは最早疑いようがない。
 目の前の鈴が、ひどく不安そうに僕を見ている。大丈夫だ……とはとても言えない。気休めにすらならないだろう。
「――とにかく僕たちは同じ事を思っている。独りじゃない」
「うん」
「それは大きな一歩だよね、鈴」
「ああ……そうだな」
 今度は心なしか強い口調だった。

「……理樹は、恭介に話したのか?」
「いや。鈴は?」
「あたしもだ。何も言ってない」
 それはたぶん……恭介に対する得体の知れない不信感そのもののせいだ。それを相談する相手としては恭介は選ばないだろう。
 しかし、鈴は目を伏せた。
「相談しようかとなんども思った。でも、信じられない」
「そうだね」
 僕は肯定する。ずきりと胸が痛んだ。恭介を信じられない。それは考えたこともない、考えたくもない事態だった。でも、実際に僕たちはそう思っている
 単なる勘違いか――いや。小さなことを見逃すべきではない。とくにこういう――異常なものについては。なぜだかわからないけれど、僕はそう思った。

「理樹」
「なに?」
「あたしは、なにか……おかしいと思う」
「おかしい」
「うん。理樹はそう思わないのか」
「そうだね――」
 なにか、
「――おかしい、と思う」
「なあ、理樹」
「うん」
「あたしは、こういう状況を知ってる」
「……何だって?」
 びくりと鈴が震えた。思わず声が大きくなってしまった。
「ごめん。ちょっと驚いたから――知ってるって?」
「いや……知ってるっていっても、本当の話じゃない」
「どういうことさ」
「前に読んだマンガで、こういうシーンがあった」
「マンガ?」
 目を丸くした。だが、鈴は真剣だ。
「バカにされるのはわかってる。でも、あたしの気分にいちばんちかいんだ」
 気分に近い。それは大切なことに思えた。僕は頷く。
「判った……聞かせてよ」
「ああ」

 ちらりと鈴は窓の外を見た。曇り空だ。舗装された道を幾人かの人々が歩いている。鈴はそこにまるでマンガの登場人物を配するようにして――
「『気をつけて――!』」
――言った。
「『あたしたち、何者かの革命装置<レボリュートリック>の攻撃を受けている可能性があるッ!!』」

(続)


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