猫たちは変わらずに鈴になついている。にゃあ、とごろりと仰向けになって、腹を見せると、鈴はくすりと笑った。
「よしよし」
喉のあたりを撫でる。くすぐったそうに猫が身をよじった。
僕たちの間に会話は要らなかった。言葉がなくても、互いに次にどうするかがなんとなく判る。猫たちを二人で――実際には鈴ひとりで、だけど――相手をしている時間は、どこまでも優しくて暖かかった。
空を見上げる。今日も空が高い。冬はまだまだ遠そうだ――
――吸い込まれそうな空だった。晴れ渡った青空は綺麗だけれど、何かの本で読んだ。青、という色は、見る人を不安にさせることがあるのだそうだ。英語のブルー、何となく落ち込む、不安、音……
音?
はっと我に返る。勘違いか? いや……耳を澄ませば――確かに、透き通るような静けさの向こうから、幽かなピアノの音が――聞こえた。
その音はどうしてだか、僕の心を揺さぶった。僕の心の、とても深い部分をだ。
知っている曲だろうか。いや、聞いたことがない。でも、知っている……ような気がする。
僕は立ち上がる。
音を追っていく。校舎を回りこむ。裏庭に出た。裏庭に面する日陰から、それは聞こえてくるようだった。
窓が開いている教室はひとつ。音楽室のほうじゃない。窓にはカーテンがそよそよとたゆたっている。
まるでガラスか雪のように繊細な音だった。それを壊してしまわないように、そっと歩み寄る。一歩、二歩……。
覗き込むのは無粋だ。窓から見えないように、校舎にもたれかかる。
背後から聞こえる旋律に身を任せる。ほんらい明るいような曲に聞こえながら、その響きは――青だった。
やがて演奏が終わる。終わったと気づくのに少しかかった。
どうしよう、と我に返る。何か目的があって来たわけじゃない。でも、ここでずっと聞いていた。このまま黙って帰るのも失礼か……でも、黙って聞いていたのも、どうかと思う。
困った――
「そこに誰かいるのか?」
声がした。