目がうっすらと開くと、僕をひどく心配そうに見下ろしている顔があった。
「理樹? 気づいたか?」
「うん……?」
理樹――直枝、理樹。そうだ、僕は……
「鈴……?」
女の子が――鈴が、まるで泣きそうな顔で息を吐いた。
「どうしたんだ、一体。突然倒れて……」
「棗、鈴」
ゆっくりとその名前を呼ぶ。
「はあ?」
わけわからん、という顔だ。いつもの顔だった。
「おまえ、だいじょうぶか?」
その手が僕の額に乗せられた。頭の後ろの柔らかい感触に気づく。膝枕か。あたたかい……
くしゃり、と自分の顔が歪むのが判った。
「お、おい……理樹!?」
自分でもわけがわからないまま、僕は鈴にすがりついた。
「う、うう……」
嗚咽が止まらない。怖かった。
何もかも、自分の名前さえも忘れて……それが恐怖でなくてなんだというんだ。
にゃあ、と猫が鳴いた。
心配してくれているのかも知れない。ひどい話だった。
しばらくそうして泣いて、気づくと日が暮れていた。
相変わらず景色は渡り廊下のそばのそれだった。
横には鈴の顔があった。
「鈴……だよね」
頷く。それから、少し難しい顔をした。
「なにがあった」
「……?」
「理樹、おまえ、ちょっと普通じゃなかった。なにか、あったんだな」