28.僕たちを探して


 とにかく、重要なのは、僕たち3人が――鈴、名前のない彼女、そして僕が――それなりに固い縁で結ばれていた、という推測だった。
 学校で3人以上の人間が……となると、部活か委員会活動か……というところだろう。もしまったく個人的なつながりだったら、検討もなにもあったものじゃない。
「鈴君の様子を見ていると、委員会活動という線はなさそうだな」
「余計なお世話じゃボケーッ!」
 そんなコントはさておいて、僕たちは文化部の部室を片っ端からあたって見ることにした。

 最初に足を踏み入れたのは、茶道部だった。特に目当てがあったわけじゃない。部活棟の一番端にあったというだけの理由だ。巨大な鍵束を取り出すと、名前のない彼女は笑った。校内の鍵という鍵はぜんぶ、揃っているらしい。
 名前のない彼女はまるでなんでもないことのように、お茶を点ててみせた。そのお点前に、僕と鈴はただただ驚くばかりだ。
「もしかして、もともと茶道部だったんじゃないの?」
「なに、知っているだけさ。知識なら掃いて捨てるほどある」
「ふうん……」

 そんなふうにして、僕たちは1日に1箇所のペースで、文科系の部室を次々に回ってみることにした。箏曲部、家庭科部……といったあたりだ。でも、名前のない彼女がいろいろなことに――多才とか才媛とかでの表現ではまるで足りないくらいに――精通している、ってことが判っただけで、僕と鈴は、目を丸くしてそれを見ている、見よう見まねでやってみては失敗する……それで放課後は終わっていった。

 部活はなにも専用の部室を持っているとは限らない。たとえば科学部は物理準備室と化学準備室をねぐらにしている。ぼくらはそういう場所にも入り込んだ。試験管で薬品を混ぜ、色が変わって爆発した。鈴の顔が真っ黒になって、でも本人はまるで気づかないで目をぱちくりさせていた。

 空き教室を使う部室は、たとえば歴史文化部とかで、社会科控室の片隅に資料置き場があった。そこから紙束の類を引っ張り出しては教室に広げてみる。都合良く僕たちの名前が見つかるでもない。鈴は退屈そうにあくびをしている。

 芸術系の部活を回ったときには、またも名前のない彼女の才能に驚かされた。美術室で絵を描き、音楽室でピアノを弾く。それだけじゃない。粘土や木彫りの造形もするし、楽器だったら何だってこなした。こういうものに、鈴はとても興味を示した。が、自分でやってみるとなると、まるで不器用だった。最後には放り投げてしまうので、こういったところに鈴が属していたようには思われなかった。

 そうやって何日も何日も部活を渡り歩いた。それでも僕たちの『縁』らしきものは、一向に見つからなかった。そして、最後に、一番最後に残ったのが――運動部室棟だった。

(続)


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