棗恭介は、懐に手を突っ込んだ。3月だ。懐中時計の感触はまだ冷たい。
今回もタイムアップ……だ。バレンタインデーとホワイトデーでケリをつけられなければどうにもならないだろうと、棗恭介は繰り返しの中で考えてきた。そこに向けた伏線は巡らせてはきた。が、まだ不十分らしい。
理樹と鈴は、周回を重ねるごとに、ある種の親密性を増している。それは間違いない。だがそれがなかなか恋愛感情に結びつかないのがもどかしい。
そうでないと、意味がないのだ。
恋愛感情――永遠の世界。
理樹と鈴の終の棲家。一方通行のアルカディア。
二人をそこに送り込むためなら、俺は何だってやる。
棗恭介は改めてそう決意を固めた。